東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7552号 判決 1977年2月17日
原告
水島進之祐
右訴訟代理人
岡本喜一
外二名
被告
安部重成
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実および理由
第一本件訴訟の概要
一本件訴えは、原告が被告外三名(野津貫次、安斉真および大塚徹)を被告として提起したものであり、その請求の趣旨および原因はつぎのとおりである。
(一) 請求の趣旨
1 被告野津貫次は原告に対し、別紙物件目録記載(一)および(二)の各不動産(以下、本件物件とも表示する。)につき、東京法務局町田出張所昭和三九年一一月三〇日受付第一八八八三号および同法務局出張所昭和四〇年三月二四日受付第四六三七号各所有権移転請求権保全の仮登記に基く本登記手続をせよ。
2 被告安斉真、同安部重成および同大塚徹は、右各不動産につき、原告が前項記載の本登記手続をすることを承諾せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
(二) 請求の原因
1 被告野津は、昭和三〇年一〇月三〇日、東京信用金庫との間で、株式会社野津が右金庫との間の金庫取引契約に基いて同金庫に対し現在ならびに将来負担する債務を担保するため、同被告所有の本件物件につき、債権元本極度額二〇〇万とする根抵当権設定契約を締結するとともに、その債務不履行を停止条件とする代物弁済予約契約を締結し、右物件につき、同年一一月三〇日、東京法務局町田出張所受付第一八八八二号をもつて右根抵当権設定登記の、また、同法務局出張所受付第一八八八三号をもつて右代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記の各手続を了した。
2 また、被告野津は、昭和四〇年三月二四日、右金庫との間で、野津昭彦が右金庫から借受けた一〇〇万円の債務を担保するため、本件物件につき、抵当権設定契約を締結するとともに、その不履行を停止条件とする代物弁済予約契約を締結し、同日、右物件につき、右法務局出張所受付第四六三六号をもつて右抵当権設定登記の、また、同法務局出張所受付第四六三七号をもつて右代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記の各手続を了した。
3 しかるところ、原告は、右債務者たる株式会社野津および野津昭彦の承諾をえて、昭和四一年五月一三日、右金庫より右各抵当権付債権および代物弁済予約の予約者たる地位の譲渡を受け、同年六月一八日、その旨の各登記手続を了した。
4 その後、株式会社野津および野津昭彦が約束の昭和四一年七月一〇日までにその債務の弁済をしないので、原告は被告野津に対し、同月一二日、右代物弁済の予約完結権を行使する旨の意思表示をした。
5 ところで、本件物件については、被告安斉、同安部および同大塚のために、それぞれつぎのような登記が経由されている。
(1) 被告安斉につき、東京法務局町田出張所昭和四〇年一二月二七日受付第二〇九〇九号根抵当権設定登記、同日受付第二〇九一〇号停止条件付代物弁済予約に基く所有権移転請求権保全の仮登記、同日受付第二〇九一一号賃借権設定請求権の仮登記。
(2) 被告安部につき、右法務局出張所昭和四一年一月一九日受付第六三一号抵当権設定の仮登記、同日受付第六三二号停止条件付賃借権設定の仮登記。
(3) 被告大塚につき、右法務局出張所昭和四一年二月一日受付第一四七〇号所有権移転請求権の仮登記、同日受付第一四七一号賃借権設定請求権の仮登記。
6 よつて、原告は被告らに対し、請求の趣旨のとおりの判決を求める。
二被告安部の答弁<省略>
第二本件訴訟手続の経過
一本件訴状は、昭和四一年八月二九日までに、被告安部外右三名の被告全員に送達され、同年一〇月五日、第一回口頭弁論が開かれ、同期日において、原告の訴状陳述、被告安斉の答弁書陳述がなされ、被告安部の前記答弁があり、被告野津提出の請求認諾の答弁書の陳述の擬制がなされ、期日の続行がなされた。
二そして、同年一一月一六日の第二回口頭弁論期日から昭和五一年二月一九日の第二二回口頭弁論期日まで期日指定がなされ、被告安部は昭和四二年七月二〇日の第九回口頭弁論期日までは出席したが、同年九月一九日の第一〇回口頭弁論期日に出頭しなかつたため、訴状記載の同被告の住所宛に同年一〇月三一日の第一一回口頭弁論期日の呼出状が発送されたが、転居先不明の理由で不送達となり、その後同年一二月五日の第一二回口頭弁論期日の呼出状が再度発されたが、右同様の理由により不送達となつた。
三当裁判所は、前記のとおり期日指定をしたものの、原告が被告安部の住居所その他送達をなすべき場所を補正しなかつたため、同被告に対する期日の呼出ができないまま経過した。そこで、当裁判所は原告訴訟代理人に対し、昭和五一年一月一九日、同年二月一九日および同年九月二七日の三回にわたり、命令到達後三〇日以内に右被告の住居所その他送達をなすべき場所を補正するよう命じたが、右期間を経過してもその補正をしない。
四なお、本件訴訟のうち、被告安斉および同大塚の関係の訴は、昭和五一年二月一九日の第二二回口頭弁論期日に当事者双方が出頭しなかつたため休止となり、その後期日指定の申立もないまま三か月を経過したため、訴の取下があつたものとみなされ、これにより終了した。
第三当裁判所の判断
右のように、被告に訴状が送達されたのち、被告の住所が不明となり、期日の呼出状が送達できなくなつた場合、原告がその後八年余りの間に一〇回にわたり期日の指定を受け、さらにその後三回にわたり被告の住居所その他送達すべき場所の補正を命じられながらこれに従わず、なんら住所補正の手続も公示送達の申立もしないときは、裁判所は、職権で公示送達の要件を調査したうえ公示送達をなすべきことを裁判所書記官に命ずることなく、民訴法二〇二条を準用して判決をもつて訴を却下することができると解するのが相当である。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (海保寛)
物件目録<省略>